監督  フェルナンド・メイレレス
出演  レイフ・ファインズ レイチェル・ワイス
ユベール・クンデ ダニー・ヒューストン
ピート・ポスルスウエイト ビル・ナイ

さぁ、私に何が書けるのだろう?
とにかく心の中に書き綴るのが困難なものが渦巻いている。
それもどうすることも出来ないとはっきり自分で分かっている巨大な無力感の中で。
この映画の音楽が単調に静かに波が繰り返し繰り返し寄せ来るように鳴り響くように、
心の中に繰り返し繰り返し寄せ来る重い思いがある。
見たくないもの、知りたくない世界がこの音楽に乗って繰り返し繰り返し私に考えろと迫ってくる。
溢れる愛情も情熱も得体の知れない深い闇の中に飲み込まれていく。
いいたいこと、訴えたいことが声高ではなく心に沁みてくる。
だが、涙を流す以上に何が出来るのだろうか?私に?
ヒロインのテッサはその知性が得たものを一直線の情熱の羽に乗せてすべきことに突き進んで称えられるべき女性像を永遠に打ち立てた。
だが、私が打たれたのは夫のジャスティンにだ。
イギリス人らしいイギリス人。
静かで理性が勝ち庭仕事を愛する感情的ではない既に出来上がっている人間のはずだった彼だ。
知ろうと決意してからの彼のした一途な頑固さのことだ。
知っていくこと、それを受け入れていくこと、深く受容するということ、その行き着く先。
知りえた妻の愛情の深さも、自分の妻への深い愛情も、それがなんになったんだろう。
この恐ろしくも悲しい大地の上に落ちると、乾ききった大地が一滴の水を跡形も無く吸い尽くすように、どんな愛情も無力なのだと思えて・・・
一体何をこの大地に注ぎ込めばいいのだろう?
分かっているくせに!人類は皆分かっているくせに!
ジャスティンの死、自分を待つものを知りながらセスナから降りた少年のそれからが暫くは心の底であの音楽のようにこだまし続けるだろう。
だが、何時まで?それが今一番怖いのかもしれない。

久しぶりに映画を見て原作を読みたいと思っている。