監督  トム・ティクヴァ
出演  ベン・ウィンショー、ダスティン・ホフマン、アラン・リックマン、レイチェル・ハード=ウッド、アンドレス・エレーラ、サイモン・チャンドラー

厭なものを見ちゃいました、生理的に相容れないという感じです。
猟奇、倒錯、怪奇、醜悪・・・
その対極の奇妙な美と誘惑・・・も!
ですから、勿論見てよかったところも有りましたよ・・・映画はどんな映画でもそうです。楽しめるところは必ずありますから。
その意味では良くも悪くも映像の力には圧倒されました、最初から最後まで。
でも私はこの映画を好きとか良かったわとか素直な言葉ではお薦めできないと思いました。
楽しみたいというだけでなく、美醜・善悪を超えて映像・音楽・配役・演技に、映画という総合芸術に、浸りたいというのなら勿論話は別ですが。
やはり好悪という点では後者になってしまいます。
同じ監督の「ヘヴン」の終章の映像の美しさを思うならこれはまさに「ヘル」で始まりました。
導入部のパリの悪臭までもが確かに漂ってくるような描写は圧巻で、18世紀のパリ、その不潔感、パリ市民の生活環境の悪さと貧困はその後のフランス革命の必然さえも伺えるような確かさでした。
物語的にはこの主人公に感情移入、共感出来ませんでした。ある種同情の気持ちはあったのですが、多分彼はそんな気持ちははなっから理解できないでしょうし?必要もありませんね?
彼の育った環境は、又はそれから生ずる不潔さの中では彼を無臭の人だったとはとても思えなくて、このシチュエーションはただパフュームというものがパリで何故絶対的な必要があったかを理解させるために無理やりこじつけられたような気がしてしまいました。
無垢なら染まりやすいのじゃないかしら?むしろ悪臭を嗅いで育ったのですから彼自身悪臭に染まってしまいそうです。あらゆるものの匂いをかぎ分けるときのグルヌィユを見ているとなんかぞーぉーっとします。私も得たいの知れない動物に嗅がれている様な気がして。
あの時代、あの環境、あの生育状況、パヒュームの力を借りなければ、まともな鼻を持っていたら生きてはいけなかっただろう・・・って。
大多数の人、下層階級の人には悪臭の中こそが世界だったのでしょう?だからこそこの時代にはパヒュームは力であり魅惑そのものだったのでしょう?そして何も持たない彼はそれに恋焦がれたのでは?
正反対の体臭を持ったもの同志が恋に落ちると言うでは有りませんか?それならばこの体臭の無い青年を愛する者にはこの世では巡り会えないと言うことでしょう。だから彼が究極に求めた物はただ恋をした?体臭に焦がれた?女性の単なる匂いだけではなく、彼女の放つフェロモンだったのではないでしょうか。
男でもいい!女でもいい!年齢も立場も何も無い全ての人間に働きかけるフェロモン!それが彼の究極に欲したものだったのだと私は思いました。
不気味でしたが、死体の美しさ、最後の司教までも巻き込んでの集団場面のおぞましさ、は私には目を背けたい以外の何者でもありませんでしたし、特にリックマンさんの演じる父親の最後の表情は地獄の業のようで怖気を奮いました。それは最愛の娘の純粋な香りの中での恍惚の様でもありましたが。でもだからこそ彼が生まれ来たところへ塵芥の様に帰っていったのは禊ぎのようで、これしか救いは無かったと妙な納得をしました。