紙屋悦子の青春
映画タイトルINDEX : カ行 3月 15th, 2007監督 黒木和雄
出演 原田知世、小林薫、本上まなみ、永瀬正敏、松岡俊介
つつましい映画を見ました。
つつましさが端正な美しさにまで昇華していたようです。
そう、監督が亡くなったから、なお更そう思えたのでしょうか?
いいえ、あそこにはつつましい庶民の生活が戦争の陰を帯びていっそうつつましさを強いられている日常が本当に淡々と描かれて、しかもそれが美しいのに心を衝かれました。
日常を圧迫されていても、つつましい庶民の生活には優しさも、明るさも、思いやりも、逞しさも残されていて・・・。
あの懐かしいちゃぶ台のある茶の間、そして玄関脇の桜が望める客間が舞台の殆どでしたが、その佇まいの清潔な質素、簡素さが懐かしいくらいでした。
戦後、あの茶の間が居間になって、色々な電化製品やら家具やらが増えていって豊かになっていったのですが・・・果たしてそれは幸せに直結したのだろうか?と考えてしまいました。
そう、やっとこの映画を見てきました。
昨年岩波ホールでしている時に「行こう行こう」と言いながら、あそこは長くしているからと油断しているうちに終ってしまって、がっかりしていましたが、ようやくです。
あの茶の間での夕飯、兄夫婦と妹3人の夕飯を食べる光景が今も胸に迫ってきます。まだ桜の咲く前の季節なのに、おかずの芋が臭っていて・・・私の母が「芋は足が速いから気を付けて、残ったら必ず冷蔵庫に入れなさい。」と言っていたなぁ・・・姑が「臭った物も大事にお腹に片付けるのは嫁の務めだよ。」と言っていたなぁ・・・などと思い出していました。あれは戦争の時に染み付いた「食べ物は大事!」の名残だったのでしょうね。それにしても愛らしいお嫁さんと綺麗なお嫁さん候補でした。今ならまだ子供といってもいい?年頃なのに、困難な時代には人は早く年を取りますね、健気に。
映画の中の淡々とした生活描写にしびれましたけれど、「彼女と彼たちの?」恋模様は少々納得がいきませんでした。
あの頃色々な生き方を若い人たちは選びました・・・ってそれは今もそうか!
戦争に行く前の一夜でもと恋を貫いて添い遂げて若い未亡人になったり、父の居ない子を産んだり・・・もっともそれは物語の中のことで、大多数の人はそんなことはなかったんでしょうね。
紙屋悦子さんの選んだ青春は明石少尉が出撃を告げに来た夜一人で号泣するだけで終ったのですね。つつましい道徳観の凛とした情緒の安定した成熟した女性がそこに居たのだと思いました。そして素直に彼が彼女の幸せのために選んだ青年と添い遂げたわけです。彼女は彼がそうすることで安心して死にゆけるからそうしたのでしょうか?でも恋を譲られて夫になった永与少尉は素直になれるものでしょうか?親友の明石少尉が彼女に恋をしていたのを知っていたのに。親友が愛した人を幸せにしてあげたかったのでしょうか?生き残る者の務めだと?でもそれでよかったのでしょうね。それが映画の冒頭にちゃんと語られていましたものね。彼らは幸せにこどもを育て上げ人生の終わりに入って静かでしたものね。
「人は強いんだ!」と思う反面、青春ってそれでよかったんだ?ってちょっと侘しい気持ちでもありました。時代がそれを強いたのだと思えば反戦の気分はいや増します。この時に至って、監督の心がにじみ出てくるようでした。
ひどい時代だったのに、その日常が静かに述べられると、あの時代がセピア色に包まれて美しく思ってしまうなんて・・・私も十分?感傷的に年を取ったってことなんだろうなぁ・・・
黒木監督は日本の節度ある日常を本当に愛していらしたのでしょうね。
それにしても原田さんって、随分長く見ているような気がするのに、変わらないのねぇ・・・驚きです。
12月 3rd, 2010 at 12:53:39
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