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時雨みち (新潮文庫) 時雨みち (新潮文庫)
藤沢 周平新潮社 1984-05
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監督  篠原哲夫
出演  田中麗奈、東山紀之、壇ふみ、篠田三郎、富司純子、村井国夫、永島暎子、高橋長英、樋浦勉
この原作は周平さんの短編の中でも印象に残っている好きな作品の一つです。周五郎さんの「婦道記」の女性に通じる健気さがあるのですが、もっと現代的な血を感じさせます。でもどれも自分の生き方を貫く女性たちの可憐さ強さを描いて秀逸な作品ばかりです。
美しくて凛としていて饒舌ではなく芯が強い雪国の柳のような女性です。
だから、これが映画化?え、大丈夫かなぁ?誰が野江さんをするの?
弥一郎は?え~この二人?そりゃないんじゃないのぉ?危ないなぁ・・・見に行くべきか?止めた方が無難!
と、まぁこういう筋道でした、頭の中では。
おまけに「地下鉄に乗って」の監督でしょう?若い!
黒土監督でも、山田洋次監督ですら、難しかったあの世界です。
しかも短編1作!ほんの短い、さぁどうしましょう?
ところがところが藤沢映画の中では多分最高の出来だったかも!
全く余計な説明が無かったのが何よりよかったです。
海坂藩の1年が映像の中で見事に再現されていました。素朴な桜の美しさも、雪、豪雪に耐えて咲く花が見事に野江さんを象徴して。私的には疑問符だらけだった東山さんの演技も、寡黙で姿の美しさのみ印象的できりっと凛と、抑えた演技に見えました。
田中さんはりえさんが演じた朋江、松さんの演じたきえさんと劣らない風情を見せました。少し幼かったかな?という気はしないでもありませんが。おっとりした愛情深い家で育った女性のつつしみも芯もちゃんと見せました。堪えられる女の強さとそれに寄る成長、その屈折を見せるにはまだ少し若いかな。
映画全体が、本当に寡黙でした。篠田さんの父も、弥一郎も全ての登場人物も。
それが本を愛読している人をがっかりさせない映画に結実したのだと、監督始め脚本を手がけた人の本に対する愛情を素直に感じられました。だからこそ母の「回り道をしているだけ」が生きました。
素直に女性を肯定する素晴らしい科白がきっちり印象的に生きました。
母3人が上手かったですね。壇さんの見せる母らしさは愛情をたっぷり湛えて優しく美しいし、闊達で生き生きした富司さんの母は弥一郎を育てた人らしい賢さを、永島さんの母は母なりにその家風の中でその時代の女性の厳しさを見せて。丁寧に本をめくるような映画化でした。
慌てて父に「見に行っても大丈夫だよー」と電話しました。

海坂藩大全 下 (3) 海坂藩大全 下 (3)
藤沢 周平文藝春秋 2007-01
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