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帰らない日々 (ハヤカワ文庫 NV シ 26-1) 帰らない日々 (ハヤカワ文庫 NV シ 26-1)
高瀬 素子早川書房 2008-06
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監督    テリー・ジョージ
出演  ホアキン・フェニックス、ジェニファー・コネリー、マーク・ラファロ、ミラ・ソルヴィーノ、エル・ファニング、ルーカス・アルノー、ジョン・スラッテリー

交通事故で子供を死なせてしまったのは事故か殺人か?どういう裁きが妥当なのでしょう?どう裁くべきなのでしょう?事故で人を殺した場合の罰の軽さに驚いた人は多いでしょう?
余りに身近に、誰にでも起こりうる状況を描いていて実に辛い映画でした。そう、誰でもどちらかの家族に思い入れして見たのではないでしょうか?運転する人なら誰でも、家族の車に乗せてもらう人なら誰でも。車の無い社会なんて考えられない社会で!
加害者と被害者の生活と思いをこれだけ並べて丁寧に描いていくと・・・もうどちらも悪人ではないのが解かるだけやりきれなくなってきます。
それにしても人を殺しておいて逃げる輩は許されるべきではない・・・と、思いつつ、その場になれば恐怖の余りその場から離れることしか頭に無くなるだろうとも思います。人はそんなに強くばかりもありません。実際裁判で争う飲酒運転の子供を殺した犯人なぞの記事を読むと、裁判で争うな!出来る限りの謝罪と補償に残りの人生を使い尽くせ!とか、いたいけな子供が何人も死んだ余りに悲しい事故なんかは殺したのだから死罪で償なうべき!他に遺族の悲しみをあがなう方法があるかとすら思うことがあります。
先日読んだ東野圭吾さんの「ダイイング・アイ」などを思い出すまでも無く、償って、償って、償って、それでも許しはあるか?と。
しかしこの映画で一番衝撃的に感じたのは子供を失った後の夫と妻のその後でした。最初は自分のせいと自分を責め夫の保護の下、外にも出られず自分の悲しみだけに引きこもっていた妻が、もう一人の自分を必要とする子供の存在に気が付いて徐々に日常に復帰するのと対照的に、妻と残された子供をひたすら守ろうとして理性を保っているかに見えた夫がどんどん悲しみと自責の淵に飲み込まれ引きずり込まれて復讐しか眼中に無くなっていく。男と女の違いはこの場合普遍的なものではなく、この映画の設定にすぎないと思っても、何故か女の現実的な強さに圧倒されて・・・果たして自分もだろうか?と自分を覗き込むような気持ちで見ていました。一番健気だったのは娘でしたしね。
そして償わなければ償わなければと思いつつも、自分と息子との心惹かれる生活に決別を告げられぬまま日々に流されて、償いの日を一日延ばしに延ばしているうちにのっぴきならない時が訪れてしまう犯人の心情も人事ではなくて・・・。
この場合犯人の側に正常な人間らしさがあったからこう結末が来たけれど・・・もし?と思う。もっと恐ろしい結末もありえた状況にまで追い込まれて。「もし?」の方が現実には圧倒的に多いのではないか?逃げ切る犯人の方が多いのではないか?と。検挙率の事を考えてしまう。実際、検挙率を上げることは、犯人の心の救いになる場合もあるのではないか?と。
あちらこちらで絶えることなく続いている現実を目の辺りにした気がして、切なくも悲しい映画でした。
ホアキンさんはずーっと悪人面だと思っていたけれど「ウォーク・ザ・ライン」で彼の演技力の前にひれ伏したのでした。この映画でも犯人を追い求める憑かれた父も見事でした!