ユナイテッド93

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監督 ポール・グリーングラス
出演

「9・11」のテロそのものにも色々な意見・見方があるようですが、
ここは素直に「9・11で亡くなられたすべての人に捧げる」映画と受け止めて見に行きました。
あの時の恐ろしい映像は今でも未だ脳裏に鮮やかです。
そして見終えた今、
あのテロで亡くなられた全ての人々と、その報復を果たすために派遣されて亡くなられた全ての人と、あのテロのことなど全く知らなかったにもかかわらず、アメリカの報復のために殺されたすべての人々、あの事件の余波で苦しむ全ての人に心からの冥福をお祈りし、お悔やみを申し上げたいと思います。
何にもならないことは承知で心から悲しく思います。
この憎しみの連鎖を断ち切る術など思いもつきませんし、その根を正す方法も全く分かりません。
ただただ悲しい世界だと思います。
たとえこの事件の裏がどんなものだったとしても、現実に人が沢山亡くなり、互いが互いへの報復が正当化され今も続いているのですから。
「ユナイテッド93」に乗り合わせた人々、状況をつかみきれないまま右往左往する人々の表情を見ているうちに、本当に一人一人は普通の人々なのに・・・犯人も含めて・・・ということが迫ってきて、私が生きているこの世界は一体どうなっているのだろうと、私は座席で手をこまねいて、何も見ずに暮らしている自分を感じていました。
何時何に巻き込まれてもおかしくない時代に生きているのですよね?
家族への最後の電話にすがりつき「愛している!」と必死に伝える人々を見て、有事の際の最後の伝言に涙を流すのはこれが最初では無いことに気が付きました。今も!いつまでも?人は同じ事を繰り返し続けているのです。
私だったら・・・「ありがとう。」しか出てこないだろうなぁ・・・と。
それでも繋がっている向こうの誰かに必死で何かを伝えようとするのだろうなぁと。
「この映画見に行かない?」と誘ったら、「行かない、恐いもの。男って戦争が好きで人を殺すのが好きなんだよ、結局。そんなもん一人でどうぞ。」って、言われちゃった。
女護ヶ島に暮らす気はないんで・・・思っちゃったのだけれど。
「家族を守るためだ!」ってそれぞれの男たちが武器を手にした時に「守らなくていいから、誰も殺さないで、一緒に死のう(殺されよう)!」って女たち皆が言えれば・・・そういう家族が増えれば争いは何時かこの世から無くなると思う?
女が「あなたって強そうで守ってくれそう。素敵だわ・・・」なんて男を鼓舞したり、夫の、または子供の「敵を取って!」って男にすがりついたりしなければ、戦いの連鎖はそこで終る?
それにしても、アメリカは自分の国でテロが起きた時に、ああなす術が無かった・・・、またはすべきことが決定できなかった・・・、またはやっぱり後処理(それも間違った!)しか出来なかった・・・って事を思うと日本に向かってくるテポドンに、間に合うように何か出来るとは思えないな。
テポドンを打ち込みたくないと向こうが思えるような「いい関係」が築けないなら・・・日本は政策を誤ったと言うことかも知れないけれど(最も私はあの国は得体がしれなくて、恐い)、それならそれで自分の失敗は自分であがなう気でいなくちゃならないのかもしれない。他人の妻子のために命を懸けるか?っていう問題。
どこかよその国に守ってもらおうとか、誰かがどうにかしてくれるとか思っていると、武器を手にした「自分の男?」に勢い任せに誤って?殴り殺されるかも!
やっぱり武器が一番悪い!いえ、一番悪いのはやっぱり自分しか見えない人間。
果てしない堂々巡りをしている私です。
映画のエンディングの音楽が、又非常に印象的で、私の堂々巡りを促すようでした。
内省を促すような、喪に服してと訴えているような。
心が木魚を叩きながら祈っているような・・・
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 山猫

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監督  ルキノ・ヴィスコンティ
出演  バート・ランカスター、アラン・ドロン、
クラウディア・カルディナーレ

久しぶりにバート・ランカスターにお目にかかりました。
BSで古い映画やってくれるおかげです。
「男」が男だった時代の映画だというとおかしいでしょうか?
バート・ランカスターのシシリー島の公爵は「男」としか言えないんですもの。
現在の男女共同参画時代では許されない男ですよ。
でも、バート・ランカスターの堂々たる体躯とあの髭(似合っていますよね?)ですからね、この映画の中で彼が演じていたのは間違いなく「壮大な男」でした。
イタリアが統一される前夜くらいのイタリア、シシリー島が舞台ですから、185、60年頃?の物語です。
まず何より背景がいいです。
公爵の屋敷、舞踏会が催される特権階級の豪奢な屋敷の前に広がるのは荒れた貧しいシシリーの山岳と村落です。
こんな村々の貧しい人々をずーっと見下ろして特権を行使し続けてきた男の意識ってどんなものなんでしょう?
本当の所想像も付きませんが、公爵を演じているバート・ランカスターを見ていると分かってくるような気がします。
尊大で、磨き抜かれていて、自由奔放、欲望を抑えようともしない。
この公爵自身は生命力に溢れた生身のそれこそ生々しい男なのに、個人としてよりも彼の家柄の疲弊がここに来て時代の波におぼれかかっているという雰囲気を見せていました。
それは甥の「時代に見事に調子よく乗っていくという選択」の背中は押してやるけれども、自分はその意志も意欲もエネルギーもないという姿勢に現れているのですが。
若々しい細身のアラン・ドロンの軽やかで衝動的に見える行動力と対照して、二つの時代が浮き彫りになってきます。
アラン・ドロンが演じるタンクレディという青年とその婚約者を演じるクラウディア・カルディナーレの哄笑が暗示的で、時代に浮かび上がっていくものと、飲み込まれていくものとを見せ付けるようでしたけれども、バート・ランカスターの公爵はそれを見届けることに奇妙な楽しみを見出しているように思えて、古い時代の凋落はそれでも一筋縄ではいかないことも教えてくれるようでした。
幾時代も乗り越えて磨き続けられてきたものは、その輝きを失う時がきても、滅びる時にはまたそれ相応の残りの輝きを見せるということでしょうか?
それにしてもタンクレディとその婚約者、その父はちゃんと上手く時代を手に掴み取れたのでしょうか?知りたいです。
この公爵の妻に生まれていたら、あんな素晴らしいシャトーに住めて、あんな素晴らしいドレスを着て、たっぷりのご馳走と舞踏会と社交に明け暮れたとしても、生まれ変わったら今度は男になりたいと思うんだろうな・・・なんてつまらない事を考えちゃいました。
たとえ斜陽の家の当主だとしても・・・?
ちなみに「山猫」というのはバート・ランカスターが演じたサリーナ公爵家の紋章です。
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歓びを歌にのせて

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監督 ケイ・ポラック
出演 ミカエル・ニュクビスト フリーダ・ハレグレン
ヘレン・ヒョホルム レナート・ヤーケル ニコラス・ファルク

私はこの映画を見て帰ってきてから、毎日ボイストレーニングをしています。
そういうと凄いみたいでしょ?
でも、ただ家で、窓を閉め切って、彼らがしていたように自由に自分の声を出しているだけです。
そして良ぉく声を出したら懐かしい童謡などを一節、仕上げに歌います。
これが結構いいストレス解消?になっています。
が、それ以上に映画を心の中で反芻して、感動を確かめているということでしょう。
この映画の物語に感動したことはもう最上の感動をしましたけれど、それ以上にひょとすると私は声を出すことの楽しさ、気持ちよさに目覚めちゃったのかもしれません。
それぞれに生活の中で色々な問題や屈託や葛藤を持っていたり、それぞれの道徳観に縛られていたりする様々な村人が、床の上に寝転んで人のお腹の上に頭を乗せて発声しているところなんか、愉快でもあり、また象徴的でもあると思われました。
腹の中、聞いてみたいものですよ。
お互いが腹の中をぶちまけると取り返しの付かないことになるのじゃないかと言う気がしますけれど、意外に道が開けることもありますしね。
同じ村でずっとーお互いの生活を見尽くしてきた人々ですもの、結末の心地よさに素直に流れ込んでいく素地が自然です。
結末では、折角思いが通じた村の雑貨屋でレジをしていたレナの、この後の悲しみまで想像してしまって、涙が止まらなかったのです。
でも命と引き換えに幼い頃の夢を実現した主人公の指揮者には「良かったわね!」と声を掛けるほか無いでしょうね。
本当に「ヨカッタ!良かった!」って、声を大にして。
彼にとっては「これで人生は完璧に近く満足のいくものになった!」と感じさせる表情を彼は見せましたから。
それにしてもレナの素朴で直接的な求愛(ちょっと古い言葉ですが)は可愛らしかったですね。
ぽっちゃりとした白い肌のように体中に優しい母性的な愛が満ち満ちていました。
それに引き換え人間関係に子どもの頃ににつまずいたままの主人公のダニエルが心を開くまでのおぼつかない戸惑いの連続はちょっとひ弱で見る女性すべての母性をくすぐったのでは無いでしょうか。
聖歌隊のヘレン・ヒョホルムの演じる夫の暴力に耐える妻が、歌に癒され勇気を得ていく過程も、それを引き出していくダニエルの書いた曲も素晴らしかったです。
スェーデンの厳しい冬の大地の中にも優しく春が芽生えてくるように、心の中にも暖かいものが芽生えてくるようなそんな映画でした。

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